年金御用ライター

http://www.nikkei.com/money/features/18.aspx?g=DGXNMSFK0903J_09112012000000
久しぶりに酷い記事を読んだ。
年金は破綻しないし、納めるべきだという趣旨なのだが(それには反対しない)露骨に誘導している。
新入社員の初任給より多い月額23.2万円、生涯6000万円もらえるなんてすごいでしょうということなのだが。。。

まず、これはモデル世帯である。年金で最も優遇される専業主婦をもつ正社員の家庭だ。最初の半分で延々とモデル世帯の話をしたあとに、

 もし、あなたが年金保険料を納付しない未納者だとすると、こんなに大きな老後の支えを受け取るチャンスを手放すことになります。仮に国民年金しかもらえない人であっても、1人1600万円ほど期待できますから、夫婦で3200万円、10年長生きすれば4500万円以上の老後の蓄えを手放すということです。やはり手放すには惜しい財産です。

「こんなに大きな老後の支え」は月23.2万円を指している。そして「仮に」などとつけてあたかも例外扱いをして、老齢基礎年金(国民年金)をアリバイ作りのために挙げる。ちなみに40年満期納めた場合の老齢基礎年金は月額66,008円。先のモデルケースでは月額給付額と生涯給付額を両方載せているが、老齢基礎年金は生涯給付額のみだ。6000万円と1600万円はどちらも大金だが、月額66,008円は少額に見えることを意識している。

また、未納が問題になるのは厚生年金に関係のないフリーターなどだ(厚生年金に意図的に加入しない小規模事業所の問題もあるが)。なのに、年金未納すると月23.2万円もらえなくなりますよ、という印象付けを行っている。

 また「未納6割」というのも不正確で、上記の納付率は免除を受けている人も含まれます。実質的な未納者(未加入者含む)は全国340万人、つまり5%しかいないのです。もちろん5%の未納を減らすことは必要ですが「95%はまじめに年金を払っている側」であることは覚えておきたいところです。

普通に法令を守っている会社のサラリーマンに未納の選択肢はない。会社が自動的に国民年金+厚生年金を天引きする。厚生年金未加入者の国民年金の未納率が数十パーセントになっていることが問題なのだ。

 国民年金が明らかに得になる理由は、保険料が5割、税金が5割で年金を給付しているためですが、未納者はこれをもらえないことになります。しかも、未納の人は将来、自分がもらえない年金のために、毎日の買い物のつど消費税等を払うことになります。これはもったいない話です

国民年金」と嘘にはならないように書いているが、前にも書いたとおり、月額についてはモデル世帯の23.2万円しか書かれていない。まるで23.2万円の半分は国が出してくれているような印象操作だ。厚生年金にこんな税金のサポートはない。

年金とは、ひとことで言うと長生き保険だ。保険料総額は一定なのに給付は死ぬまで定期的。不慮の事故にあったときの障害者年金もついてくる国民年金の価値は高い。
国の財政が破綻したらどうなるか?ハイパーインフレが起こる。つい数十年前まで1円札が流通していた国だ。戦争はないだろうが、今の先送りを重ねる政治なら1万円札が実質1円になっても不思議はない。
そうなれば受け取る年金も、今している貯金も、ゴミのようになる。

私は年金払ったほうがいい?と聞かれたら、絶対に払ったほうがいいと答えている。厚生年金はめちゃくちゃ不利な制度だが、国民年金は常に維持される。財政がなんとか維持されればお得だし、破綻したらどっちでも同じだ。民主党政権で未納者にも一律年金を、と言い出したときは考慮が必要かとも思ったけど、いま不慮の事故に遭遇したり将来このままだったりすることも十分にあり、考えは変えていない。ただ、この記事の誘導はひどい。

筆者の経歴、年金の素晴らしさを説かないと仕事が来ないんだろうな。

1995年4月 株式会社企業年金研究所入社
2000年8月 株式会社FP総研入社
2001年7月 株式会社FP総研退社 独立
2002年8月 商工会議所年金教育センター主任研究員(嘱託)

http://allabout.co.jp/gm/gp/243/