日本風力開発に係る課徴金納付命令勧告

http://kabumatome.doorblog.jp/archives/65740714.html
以前から無理のある決算を続け、有価証券報告書訂正を出してはいるものの当局から何らかのアクションがあると思われていた日本風力開発、ついに課徴金納付勧告がなされました。
ただ、最近の決算でも問題がありそうなのに2009年3月期決算という古い有報が対象になっているのかという疑問も見かけるので、私の解釈を書いてみます。

証券取引等監視委員会(SESC)が調査を行ったあとの出口は2つあります。金融庁への課徴金納付命令の「勧告」か、検察への「告発」です。
課徴金とは、運転免許での反則金みたいなもので、行政処分です。司法は絡んできません。
告発は起訴されると裁判になるので、大変なことになります。「勧告」と「告発」は天と地の差があります。
この後、金融庁はSESCの勧告を受けて調査して実際に命令を出すことになります。
命令を受けた会社(個人の場合もあり)は、課徴金を払わないという選択もあり、この場合は刑事事件に移行します(たぶん)。運転免許でも反則金を払わずに放っておくと手順を踏んで検察官に送られるのと同じです。
ただ、殆どの人が反則金を払うでしょう。検察官が不起訴にしたとしても、運転免許は行政が与えたものであり、違反点数も行政の範囲内で司法とは関係ないので消えることはなく、免許更新で障害が発生します。

こう書くとSESCが絶大な権限を持っているように聞こえますが、検察はSESCに出向者を出しており、またSESCは金融庁の下部組織でもあり、三者はほぼ一体です。大蔵省(財務省金融庁)は省庁の中でも検察と反目することは少ない組織です。(なんらかの力学で、ノーパンしゃぶしゃぶ事件のように一時的にガチ勝負になる時もありますが)
つまり「勧告」か「告発」は実質的には当局全体で決めているという構図があります。だから「告発」された案件を検察が不起訴にすることはありません。

今回は、当局が「カネを払えば許してやる」という行政処分で完結させるという意思決定をしたことになります。もちろん予期せぬ事態が生じた場合は告発につながる可能性もあります。(オリンパスは勧告・告発両方でしたが、告発が先に行われています)
また雑誌記事程度では当社に否定され続けるところ、当局が粉飾を認定することで取引先が強く出れるようになるという応援にもなります。
2013年3月期は四半期決算毎に遅延損害金が積みあがっていき、3Qでは22億円に達しています。金融機関がロールオーバーに応じていないということで、危険な状態です。いきなり潰れると当局の無策に非難が集中するので、何らかのアクションを事前にとっていたという形をとる必要もあります。

当社も勧告を受けていきなり粉飾を認めると、これまでの主張が全て嘘だったことになってしまうので、一旦は否定して戦う姿勢をみせ、でも係争に係るコストがどうのこうのとかで課徴金納付は受け入れるという流れになるでしょう。当局も当社もメンツは保たれるわけです。

次に、課徴金の額を見てみます
http://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2013/2013/20130329-1.htm
3億9969万円です。このうち、(1)の継続開示に係る部分は400万ちょっとというゴミみたいな金額です。殆どが(2)の発行開示書類に係るものです。
上場企業は自動的に継続開示の義務が発生し、また継続開示会社は募集*1を行う場合は参照方式という方法を使います。募集時は会社の開示を行いますが、その開示を「直近の」有報で代替する(詳細は有報を参照してね、ということ)というのが参照方式です。

私は課徴金制度の不備だと思っているのですが、課徴金は募集が行われないとゴミみたいな額にしかなりません。

当社の場合、新株予約権社債30億と公募増資50億円弱の参照書類は2009年3月期の有報です。直近の有報について勧告を行いたくとも、募集が行われていないので課徴金が数百万円にしかなりません。告発なら直近の有報でもいけますが、課徴金は2009円3月期を対象とする必然性があるわけです。
数百万円も4億円も大差ないとも言えますが、やはりニュースの見た目、庶民感情とやらも意識するわけです。

http://toushi.kankei.me/docs/text/S00044VX
(有報は縦覧期間は5年ですが、有価証券届出書は効力を失うと縦覧対象でなくなるのでEDINETからは削除されています)

告発にしなかった理由は、裁判になると2009年3月期の有報に適正意見を出している新日本監査法人も対象にしなければならなくなること(ライブドア事件では会計士は一審実刑控訴審執行猶予)、いきなり潰れたら銀行の融資回収がすぐにストップする、あたりかなと。

今回、2008年3月期から直近までの有報、四半期報告書を見て開示内用についてもいろいろ興味深かったですが、今日はここまで。

*1:「募集」は金商法で定義されている言葉で、一般的な証券用語でいう公募増資+自己株売出しとほぼ同義